「簡易リフト」の定義をご存じでしょうか。垂直搬送機、エレベーターなどに昇降機がありますが、簡易リフトは荷物の運搬のみを目的とする昇降機です。簡易リフトについてよく知らず、人が乗ってしまい事故が起きることがあります。
そこで今回は、「簡易リフト」について、その特徴やメンテナンス方法、関係法令などについて解説します。法令を基に、簡易リフトについて詳しく解説しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
簡易リフトとは?
「簡易リフト」とは、工場や倉庫などに設置されている、荷物を上下に輸送するための設備です。
簡易リフトの定義
簡易リフトの定義は「労働安全衛生法施行令」において以下のように定義されています。
労働安全衛生法施行令第1条9項
「簡易リフト エレベーター(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)別表第一第一号から第五号までに掲げる事業の事業場に設置されるものに限るものとし、せり上げ装置、船舶安全法(昭和八年法律第十一号)の適用を受ける船舶に用いられるもの及び主として一般公衆の用に供されるものを除く。以下同じ。)のうち、荷のみを運搬することを目的とするエレベーターで、搬器の床面積が一平方メートル以下又はその天井の高さが一・二メートル以下のもの(次号の建設用リフトを除く。)をいう。」
安全衛生情報センター 労働安全衛生法施行令
上記のうち、簡易リフトの定義として重要な部分をまとめると、
- 荷物の運搬のみを目的とする(人は乗れない)もの
- かごの大きさが「床面積1㎡以下」または「高さ1.2m以下」のいずれかに該当するもの
の2つが挙げられます。
なお、「床面積1㎡超」「高さ1.2m超」の2つの条件をどちらも満たしている場合は、法令上の定義としては「エレベーター」に分類されます。
簡易リフトの設置目的
施設等に簡易リフトを設置することで、施設内における荷物の運搬効率を高めることができます。事業場においては、重い荷物を数多く移動させる必要があるところもあります。
移動には人の手や重機などを用いることが多いですが、複数の階層がある施設の場合だと上下に荷物を移動させる必要も出てくるでしょう。簡易リフトを設置することで重い荷物の運搬効率を高め、従業員の負担を軽減できるのです。
また、スロープを設置する場合と比較して省スペースで設置・昇降できるため、限られた敷地面積を有効活用できます。
簡易リフトのメンテナンス
簡易リフトは「クレーン等安全規則」において、定期的な検査の実施が義務付けられています。
クレーン等安全規則第208条(定期自主検査)
「事業者は、簡易リフトを設置した後、一年以内ごとに一回、定期に、当該簡易リフトについて自主検査を行なわなければならない。ただし、一年をこえる期間使用しない簡易リフトの当該使用しない期間においては、この限りでない。」
事業者は、簡易リフトの設置後に「1年以内に1回の頻度で定期的に」という条件で自主検査を実施することが義務付けられています。
ただし「1年を越えて使用しない場合における、その期間内」については対象外です。
「2 事業者は、前項ただし書の簡易リフトについては、その使用を再び開始する際に、自主検査を行なわなければならない。」
クレーン等安全規則においては「1年以上使用しない場合における、その期間内」については年1回の自主検査の対象外としていますが、その簡易リフトを再び使用開始する際には自主検査を実施する義務があります。
「3 事業者は、前二項の自主検査においては、荷重試験を行なわなければならない。」
「荷重検査」とは、設備や構造物などに重さの負担をかけた状態で試験することです。
「4 前項の荷重試験は、簡易リフトに積載荷重に相当する荷重の荷をのせて、昇降の作動を定格速度により行なうものとする。」
簡易リフトの荷重試験においては、「積載荷重に相当する重さ」を乗せた状態で、昇降の動作試験を「定格速度」により実施する必要があります。
クレーン等安全規則第209条(定期自主検査)
「事業者は、簡易リフトについては、一月以内ごとに一回、定期に、次の事項について自主検査を行なわなければならない。ただし、一月をこえる期間使用しない簡易リフトの当該使用しない期間においては、この限りでない。
一 巻過防止装置その他の安全装置、ブレーキ及び制御装置の異常の有無
二 ワイヤロープの損傷の有無
三 ガイドレールの状態」
事業者は「1ヶ月以内に1回の頻度で定期的に」という条件で、簡易リフトの自主検査を実施する義務があります。
ただし「1ヶ月を越えて期間使用しない場合の、その期間内」は対象外です。
「2 事業者は、前項ただし書の簡易リフトについては、その使用を再び開始する際に、同項各号に掲げる事項について自主検査を行なわなければならない。」
こちらも同じく「1ヶ月を越えて期間使用しない場合の、その期間内」において自主検査しなかった簡易リフトを再使用開始する際には、上記3つの項目について自主検査しなければなりません。
クレーン等安全規則第210条(作業開始前の点検)
「事業者は、簡易リフトを用いて作業を行なうときは、その日の作業を開始する前に、そのブレーキの機能について点検を行なわなければならない。」
条文の通り、簡易リフトを使用する日には作業開始前に簡易リフトのブレーキに問題がないことを確認しなければなりません。
もし、ブレーキ機能その他何らかの異常がみられる場合は簡易リフトの使用を中止し、原因究明と問題解消のために技術者にメンテナンスを依頼する等の対応を講じる必要があります(これについては後述の212条において規定されています)。
クレーン等安全規則第211条(自主検査の記録)
「事業者は、この節に定める自主検査の結果を記録し、これを三年間保存しなければならない。」
クレーン等安全規則第208条~212条が「クレーン等安全規則 第七章 簡易リフト 第三節 定期自主検査等」になりますが、この条文内を根拠に行われた検査についてはその結果を記録し、3年以上の間保管し続ける必要があります。
クレーン等安全規則第212条(補修)
「事業者は、この節に定める自主検査又は点検を行なつた場合において、異常を認めたときは、直ちに補修しなければならない。」
検査で異常が確認されたということは簡易リフトが故障しているため、簡易リフトの使用を中止して速やかに修理に取り掛かる必要があります。
簡易リフトの関連法令
すでに簡易リフトに関係する法令をいくつか解説していますが、簡易リフトには他にも関連する法令等がいくつかあります。
簡易リフト構造規格
クレーン等安全規則に基づいて、簡易リフトの安全装置について定められています。
クレーン等安全規則
クレーン等安全規則には、先ほど解説した三節以外にも、設置に関する一節(202条・203条)と、使用に関する二節(204条~207条)があります。
クレーン等安全規則第2条(適用の除外)
この省令は、次の各号に掲げるクレーン、移動式クレーン、デリツク、エレベーター、建設用リフト又は簡易リフトについては、適用しない。
一 クレーン、移動式クレーン又はデリツクで、つり上げ荷重が〇・五トン未満のもの
二 エレベーター、建設用リフト又は簡易リフトで、積載荷重が〇・二五トン未満のもの
三 積載荷重が〇・二五トン以上の建設用リフトで、ガイドレール(昇降路を有するものにあつては、昇降路)の高さが十メートル未満のもの
四 せり上げ装置、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)別表第一第一号から第五号までに掲げる事業又は事務所以外の事業又は事務所に設置されるエレベーター、船舶安全法(昭和八年法律第十一号)の適用を受ける船舶に用いられるエレベーター及び主として一般公衆の用に供されるエレベーター
簡易リフトはクレーン等安全規則においてさまざまな項目が規定されているのですが、上記4つの条件に合致する場合には適用除外となります。
簡易リフトが関係するのは2つ目の項目であり、「積載荷重0.25t未満」の場合はクレーン等安全規則の適用対象外となるのです。
まとめ:特徴や法令を把握して簡易リフトを運用
簡易リフトは設置によって施設の荷物運搬などの利便性を高めることができますが、関係する法令等を無視することはできません。
安全に簡易リフトを利用するためには、関係法令をしっかりと把握して遵守し、現場においても必要事項を周知徹底する必要があります。
不明な点があれば簡易リフトのプロである業者や技術者の判断を仰ぎ、不安を残したまま簡易リフトを運用しないようにしましょう。
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