垂直搬送機とエレベーターの違いとは?建築基準法の観点から解説

工場や倉庫などで見かけることのある「垂直搬送機」について「エレベーターと何が違うの?」と思われている方も少なくありません。

実は両者は似たような使われ方をするとはいえ法律の上では全くの別物であり、法的な扱いも大きく異なるのです。

そこでこちらでは、垂直搬送機とエレベーターの違いについて、建築基準法の観点から解説します。

垂直搬送機とは?

最初に「そもそも垂直搬送機とは何か?」ということについて解説します。

垂直搬送機とは、工場や倉庫などに設置されることの多い、荷物を垂直に上げ下げして異なる階層に移送させるための設備です。

数多くの重い荷物を取り扱う工場や倉庫において、異なる階層に荷物を移動させることは手間がかかります。

垂直搬送機は文字通り荷物を垂直方向に搬送するための機械的な設備であり、複数階層が存在する施設において荷物を上下階に簡単に移動する仕組みとして活用されています。

垂直搬送機とエレベーターの違い

垂直搬送機は、定義上はエレベーターの一種として扱いそうに見えるのですが、建築基準法における昇降機(エレベーターなどのこと)としての扱いは受けません。

建築基準法が定める昇降機の例外

建築基準法において「一定の昇降路、経路その他これに類する部分を介して、動力を用いて人又は物を建築物のある階又はある部分から他の階又はある部分へ移動・運搬のための設備」を昇降機と定義しています。

これに基づくと、垂直搬送機も昇降機の一種であるように見えますが、建築基準法における昇降機の扱いには次のような3つの例外があります。

・工場、作業場等に生産設備又は搬送(荷役)設備として専らそれらの過程の一部に組込まれる施設で、人が搬器の品物の搬出、搬入に直接介入せずに使用され、かつ、人が乗り込んだ状態で運転されるおそれのない構造となっているもの

・機械式駐車場(機械式駐輪場を含む。)、立体自動倉庫等の物品の管理のための施設(当該施設に搬入された品物等が自動的に搬出位置に運搬される構造になっているものに限る。)の一部を構成するもので、人が乗り込んだ状態で運転されるおそれのない構造となっているもの

・舞台装置であるせり上がり装置

一般社団法人日本建築設備・昇降機センター「昇降機技術基準の解説」

垂直搬送機は1つ目の項目に当てはまりますので、垂直搬送機は建築基準法が適用されないのです。

垂直搬送機は確認申請が不要

通常、昇降機の着工前には「確認申請」が必要なのですが、建築基準法において昇降機に分類されない垂直搬送機は必要ありません。

確認申請とは、昇降機などの建築設備を設置するにあたり、設置工事の着工前に「建築計画が建築基準法などの法令に適合しているか」についての審査です。

建築基準法での昇降機に該当せず、その他の確認申請が必要な設置物にも該当しない垂直搬送機は確認申請が不要ですが、搬送設備を設置する際には建築基準法における防火区画などの関係法令の確認や対応は必要なので注意しましょう。

垂直搬送機は定期検査報告が不要

建築基準法においては、昇降機などの建築設備について「定期検査報告」が義務付けられています。

建築基準法第12条3項

「3 特定建築設備等(昇降機及び特定建築物の昇降機以外の建築設備等をいう。以下この項及び次項において同じ。)で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国等の建築物に設けるものを除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築設備等で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物に設けるものを除く。)の所有者は、これらの特定建築設備等について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築設備等検査員資格者証の交付を受けている者(次項及び第十二条の三第二項において「建築設備等検査員」という。)に検査(これらの特定建築設備等についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含む。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。」

e-GOV法令検索 建築基準法

垂直搬送機は、建築基準法における昇降機には該当しないので、垂直搬送機は建築基準法における定期検査報告の義務の対象にはなりません。

管理責任者が押さえておくべき昇降機関連の関係法令

昇降機の所有や管理責任者は、各昇降機が適用対象となる関係法令について詳しく把握しておく必要があります。関係法令については次のとおりです。

建築基準法(例外を除いたすべての昇降機に該当)

昇降機関連で最も重要な法律は「建築基準法」です。垂直搬送機などのように、例外的な扱いを受けるものを除いた、すべての昇降機に対して適用されます。

なお、建築基準法は「国土交通省」が所管となっています。

昇降機の維持及び運行の管理に関する指針

財団法人日本建築設備・昇降機センターから出されている「昇降機の維持及び運行の管理に関する指針」も内容を把握し、遵守する必要があります。

これは、建築基準法によるエレベーターの維持・運行の管理のために必要な事項を定め、エレベーターの安全を確保するために定められた指針です。管理者や運転者の選任、緊急時の対処法などが具体的に定められています。

労働安全衛生法

「簡易リフト」などは「労働安全衛生法」の適用対象となります。具体的には「製造業、鉱業、建設業、運輸交通業、貨物取扱業の事業所及び事務所に設置されるエレベーターで積載荷重が0.25トン以上のもの」が適用対象であり、厚生労働省の所管です。

クレーン等安全規則

「クレーン等安全規則」は、クレーンや簡易リフトなどの安全な運用について定められた厚生労働省令です。エレベーターや簡易リフトの安全な運用に関する事項がまとめられています。

昇降機に関する法令のまとめはこちら

まとめ:垂直搬送機は昇降機として建築基準法の適用は受けない

垂直搬送機は、建築基準法が定める昇降機とは異なる扱いを受けるため、一般的なエレベーターと違って建築基準法の適用を受けません。

そのため、「確認申請」や「定期検査報告」などの義務の対象外であり、利用する側からすれば、法的な縛りが少ない設備として重宝するかもしれません。

しかし、大掛かりな設備であり、安全な利用のためには定期的なメンテナンスなどの安全措置が欠かせないことは言うまでもありません。

垂直搬送機や、垂直搬送機を設置している施設の管理者や責任者は、日ごろから垂直搬送機の安全な利用のために必要な措置を欠かすことなく、施設や従業員の安全を確保したうえで利用することを心がけるようにしましょう。

設置やメンテナンス等、垂直搬送機に関する不明な点があれば、設置時に業者に不明な点をすべて確認しておき、後に不安を残さないようにしましょう。

最新情報をチェックしよう!